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プロローグ -- 本編 1 ・ 2 ・ 3
         番外編 1
プロローグ
道を、残そう。
後を見ることの出来ない私のためにではなく、
後から来る貴方のために。

人は歴史と称し、記録を残してきた。
それは長く、それ故に曖昧で、正しいのかすらわからない。
しかし、人はその歴史を信じ、時にはそれにすがってきた。
きっと、歴史には人を説得するのに都合の良い記号が含まれていたのだろう。
「正義」や「悪」、「繁栄」や「滅亡」といったものが、
「戦争」という単語に凝縮され、今ではもう「悪いもの」扱い。
「戦争反対」と言えば常識人。「戦争賛成」と言えば非常識人。

戦争が何で起こるか、なんて忘れてしまった?

そう、きっとそうなんだ。「戦争反対」なんて気軽に言えちゃう人は。
忘れてしまったか、元より経験したことがないか。そのどちらか。
そういう人に限って平気で人を傷つけられちゃうんだ。ほんと、怖いよね。
何せ、「戦争反対」って言ってる時点で何万人、いや、何十万人……?
どちらにせよ多分、それ以上の人を傷つけてるんだから。
しかも、その自覚すらないなんて信じられない。
言えばそれだけで「善」だ、なんて思ってる。そう、本気で信じてるんだよ。

 そりゃ、中には覚えてる人はもちろんいるよ。キミだってそうだった。
何ていってもキミは結局起こす方に回ったんだからね。望む、望まざるに関わらず、ね。
私はそれに付いて行っただけ、何て言い方は無責任かな。言い逃れっていうの?
多分、キミは怒るだろうね。いつものように優しい微笑を湛えながらさ。
でも、ね。最初は本当にそうだったんだよ?
キミの家で目が覚めたとき、私にはほとんど何も残っていなかった。
残っていたのは私の中にある一振りの槍と、曖昧な思い出だけ。
そして、その思い出は穴ぼこだらけ、というより穴しかなかった。
名前すら思い出せないなんてね。お話の中でしか聞いたことなかったから驚いたよ。
でも、そのことだけは今でも良かったと思ってる。
キミからは大切なものをたくさん貰ったけど、最初に貰ったものは名前。
すがるものもなく、綿毛のようにふわふわしていた私を、大地に繋ぎとめてくれたもの。
救われた、っていうと陳腐な表現だけど、そうだね、本当に救われたんだ。
あのときの……感動?安心感?ん〜、何ていえばいいのかな。
……まぁ、いいや。あの言葉にならない何かは、返せって言われても困るかな。
キミはそんなこと言う人ではないって知ってるけどね。一応。

何の話だったっけ。……あぁ、戦争の起こる理由ね。
キミといると平和で、毎日穏やかで。
これじゃ、忘れてしまうのもわかる気がするけど、これは気のせい。
だって、この平和は私たちが戦争で得たものなんだから。

人の屍の上に成り立つものなんだから。

これは他人の平和になる予定だったもの、なのかもしれないんだよ。
私たちが家畜を殺して食を得るように、木を倒して家を作るように、
人を殺して未来を得たんだ。だから、その業から目を背けることだけは出来ない。

戦争はいけないこと。だなんて、誰が決めたの?じゃあ、私は「悪」なのかな?

別に私は人を殺しても良いとは言っていないよ。条件をつけたとしてもね。
いつか私も誰かに殺され、奪われる。この決意をしたのはいつだったっけ。
というか、決意をするまでもなく当たり前のことなんだけどね。
私たちは家畜に殺されても、自然に殺されても文句は言えない身なんだよ。わかる?
ただ、それが納得出来ないのは自分がいなくなった後に残るものがあるから。
私の場合はそれがなかったから出来たのかもしれないね。
いや、なかったんじゃなくってそれがキミだったから、結果そうだったってだけ、だけど。
わからない、かな。いや、今のキミならわかるよね。

あ、もう時間か。それじゃ、私、もう行くよ。
また会うのはいつになるかな。まぁ、いつだったとしても楽しみにしてるから。
それじゃあ、ね?
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